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酒とわたくし

二十歳で酒を覚えてから、私の人生は変わった。

今はうらぶれた生活を送っているが、学生時代の私は生真面目でオールドミスみたいで、常にルールを犯している奴を咎めることに心血を注いでいた。そんな万年生理不順みたいな女だったから、酒も大学のサークルで歓迎コンパの時に飲んだのが恐らく初めてだ。むしろ酒を飲んで様子が変わる人間を嫌っていた。母親の取り巻きが、酒を飲んで顔を赤くして下卑た話やら愚かな振る舞いで笑っている意味が分からなかった。

よく母親は酒に酔っては私に冷蔵庫のビールを取ってくるように指示した。2DKの団地、テレビから冷蔵庫まではきっと5歩もない。そんな距離を立ち上がることさえ億劫がって、私を使った。大体は500缶から飲んで、続きに350か500か迷ったフリをして500を飲む。お願い、もよ取ってきて。とせがむ声が気持ち悪くて大人をこんな様子に狂わせる液体が憎くさえあった。

 

今となっては、"彼女"の気持ちも理解できるような気がする。息が詰まりそうな毎日でも、プルタブを起こして煽るだけで幸せな気持ちになれる。公に許された唯一のドラッグだ。憂鬱な気持ちが麻痺して酩酊すると共に感覚が鈍くなる。同じ明日がやってくるのは時間の問題なのに、今は幸せなような、精一杯だ。自分の力で何かを成し遂げた体験が少ないと、ついには自分自身も諦めるようになってしまう。先の幸せより、今飲んで得られる安心感の方が優先されてしまうのだ。

幼い、真っ直ぐな正義感から許せなかった堕落した日々も、25歳の雌からすると同情してしまう。酒に逃げるしかなかった思いなんて知りたくもなかったが、こうして知ってしまうと、許してやらなければいけない気がしてくる。母娘は、同じ道を辿るのかしら。

 

まさに今酔っているから、脈絡が無くて、明日起きたら赤面するかもしれない。

劇薬で得られる快感はある意味平等だ。貧乏人も、金持ちも、変わらないものを感じられる。人生を賭して掴める限界が見えてくると、そんなものに耽るぐらいしか慰みがないんだ。

 

こうして眠って、また起きてしまうだけでも、酒の恩恵だ。

 

きっと処女のままじゃ25まで生きられなかった。